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2021.10.04「陸上養殖勉強会」会報 Vol.10
令和4年4月 福井県に水産増養殖に 特化した新学科が誕生します。
福井県立大学は、令和4年4月に持続的に高品質の水産物を増産し、安心・安全に提供するための学理を実践的に学べる新学科「先端増養殖科学科」を開設します。新学科は、既存の海洋生物資源学科の水産養殖に関する分野(魚病・生物生産・水産経済)と、新しく餌料栄養、育種、情報科学分野を強化して、12名の教員でスタートします。
現在は、残餌を最小化して、目的サイズまで養成する最適な給餌スケジュールを、AI解析により決定することを目指しています。一般的に養殖場では、一定の給餌量(体重に対する割合など)を基準に育成しています。そのため、飼育期間中の成長や死亡により総摂餌量が変動すると、適切な給餌スケジュールを設定することが難しくなります。飼育している魚のサイズや尾数を考慮して、実際の摂餌量をコントロールすることができれば、上述のような問題を解決できます。そこで、第一段階として、陸上閉鎖循環水槽を用いて、飼育期間中の摂餌量をモニタリングする残餌計数システムの開発を進めてきました。自動給餌器と大型漏斗に光ファイバセンサを組み合あわせた単純なシステムですが、給餌器が1回作動する時の報酬量を少し変えるだけで、1日の残餌量が変化することがわかってきました。また、魚探を用いて、陸上水槽内の魚のサイズと飼育尾数を推定する試みも進めています。まだ、道半ばにも達していませんが、養殖現場に役立つ「給餌ナビゲーション」システムの開発に努力したいと考えています。
先端増養殖科学科は、ゲノム科学に基づく育種技術、AI、IoT技術を活用したスマート養殖、科学的な養殖魚の育成技術、陸上養殖技術、養殖場とその周辺の環境に配慮した養殖魚生産技術、さらに市場が求めるおいしい魚をつくるための餌料開発など「持続可能な水産増養殖」を体系的に学修できるカリキュラムを組んでいます。学生には、水産増養殖に関する現状と問題点を科学的に理解し、先端技術を実践的に活用する能力を身につけてもらいたいと考えています。そして、国内の増養殖産業の発展、地域産業の創出のみならず「増養殖分野」で国際的にリーダーシップをもって活躍する人材を育成することを目指しています。
新学科の定員は30名と少人数での教育を実施します。1年次は、他学部がある永平寺キャンパスで一般教育を中心に受講しますが、2年次になると、小浜に移り、小浜キャンパスと新しく開設される「かつみキャンパス」で過ごすことになります。かつみキャンパスは、先端増養殖科学のためのキャンパスで、本学の海洋生物資源臨海研究センター、福井県栽培漁業センターと同一敷地内に整備されます。すぐ目の前に小浜湾が広がり、美しい景観を望むことができます。小浜湾内とその近辺水域では、海面魚類養殖だけでなく、ワカメやマガキ、真珠などの無給餌養殖が行われています。この立地条件を活かして、かつみキャンパスで増養殖技術の基礎と理論を修得したのち、すぐ近くの海面で応用実験、さらに実証的実習・演習を実施することができます。また、令和元年8月1日に発足した「ふくい水産振興センター」を通して、県、市町、民間、試験研究機関とネットワークを構築しており、福井県内の水産増養殖団体や研究機関と講義・実験・実習での連携を円滑に進めることが可能です。新学科では、特任講師制度を導入して、生産者の方や、地域活動で活躍されている方、試験研究機関の方を教員としてお招きして、実践的な取り組みを教えていただくことになっています。これらの利点を生かして、増養殖の応用基礎力を習得したうえで、フィールドでの実践的な実験・実習に重点をおいた教育・研究を実施していきます。
先日、福井県内の男女共学校で開かれた入試説明会に出席しました。大学全体の説明の後で、各学部に分かれて説明することになっていました。先端増養殖科の説明には、20名以上の生徒が参加してくれましたが、全員男子でした。水産増養殖というイメージにジェンダーバイアスがかかっていることを強く感じました。養殖科学は食糧生産だけでなく、ゲノム科学、環境科学、地域活性学など、他分野と横断する学際的な分野で、社会と直接つながっていることを理解してもらう必要があります。新学科が、水産増養殖のイメージを変え、新しい発想と感性の若者が、この分野に関心を示すきっかけになる役割を果たすことができればと考えています。
福井県立大学海洋生物資源学部 海洋生物資源臨海研究センター
センター長 教授 富永 修
2021.9.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.9
ニホンウナギの種苗生産技術の開発~完全養殖から量産化へ~
シラスウナギ生産技術の開発状況について、3年前に本研究会にて発表させていただきました。今回、会報への寄稿依頼を受け、改めて取り組み状況や将来展望を紹介させていただきます。
現在、研究機関の飼育施設において、年間、1万尾程度のシラスウナギを養成できる技術段階に達しています。一方、国内の養鰻場で必要とされるシラスウナギの数はおよそ1億尾です。もちろん1カ所で全数を生産する必要はありませんが、シラスウナギ生産技術が社会実装されるためには、少なくとも年間10万尾を安定生産できる技術を構築する必要があると考えています。また、我々の試算では、現在のシラスウナギ1尾の生産コストは約3000円です。流通価格は大きく変動しますがそのおよそ10倍の価格です。ようやく量産化や商業化の道筋が見えてきたと考えており、これを実現するためには近年進展している陸上養殖技術を始め、様々な新技術の導入は欠かせません。
シラスウナギの量産化、低コスト化に向けて必要となる重要な技術には以下のようなものがあります。
水質浄化。餌として過剰量のスラリー状飼料を飼育水槽中に投入するため、大量の海水をかけ流すことで水槽内の水質を保っています。大量の加温海水を作るコストの削減や廃水による環境負荷の低減、さらには種苗生産施設の設置場所の自由度を高めるためにも水質浄化技術は重要です。循環式飼育についても検討していますが、完全閉鎖循環式飼育の確立はハードルが高い状況です。
成長促進。飼育下ではふ化からシラスウナギになる変態が始まるまで200~300日程度かかっています。一方、天然ではその半分程度の日数で変態が始まっていることが分かっています。飼育期間の長さはダイレクトにコストに影響しますし、飼育期間が短くなると生残率の向上も見込めます。飼料や飼育方法の改良に加えて、最新の育種技術を導入して仔魚期間の短い系統の作出にも取り組んでいるところです。
大量生産システム。ウナギ仔魚は、他の種苗生産技術が確立している魚種のように大型コンクリート水槽の規模で飼育することは出来ません。そのため、小規模の水槽を多数設置して大量生産するシステムの開発が必要です。このところ大規模な陸上養殖施設の開発の記事も目にしますが、シラスウナギ生産施設においても、生産施設の大規模化を想定した水槽、水質監視、自動給餌などのシステムの総合的な開発が必要になってくるでしょう。
これらの他にも、採卵技術や病害防除など、シラスウナギ生産技術の構築に向けて多面的に取り組んでいます。先頃発表された「みどりの食料システム戦略」では2050年までに100%人工種苗に置き換えることが目標になっています。この目標達成にはオールジャパンの取り組みが必要です。
水産研究・教育機構水産技術研究所
養殖部門長 山野恵祐
略歴
1988年 北海道大学水産学部修士課程修了
1988年 水産庁養殖研究所採用
1999年 農林水産省出向(2年間)
海産無脊椎動物研究センター長、ウナギ種苗量産研究センター長を経て、令和3年より現職
2021.8.02「陸上養殖勉強会」会報 Vol.8
完全養殖の歴史と現状~近大水研の取り組みを中心として~
完全養殖とは、“人工種苗を親魚”として採卵し、その卵・ふ化仔魚を飼育して育てた種苗を元に養殖し出荷するまでの工程を繰り返す養殖で、英語でFull life-cycle aquacultureとも訳されているように養殖魚の生活史が人工下で“完全”に循環しています。近畿大学水産研究所(近大水研)では、養殖事業の安定化には人工種苗の生産技術が重要であると考え、1960年から長崎県男女群島の女島において大洋漁業(当時)の定置で漁獲される成熟ブリを用いた人工授精を試み、養殖用人工種苗の生産技術の研究を開始しました。併せて養殖ブリを用いた親魚養成に着手し、1967年には養成ブリ親魚から、ホルモン処理と人工授精による採卵に成功し、1969年には養成ブリからモジャコの生産に成功しましたー完全養殖は2012年に達成しています。完全養殖は、ヒラメ、イシダイ(1969年)を皮切りにマダイ(1971年)、シマアジ(1983年)、オニオコゼ(1991年)、そして2002年にクロマグロで達成し、現在までに20種類以上の魚種で達成しています。
完全養殖は、天然種苗に依存しないことから、計画的で効率的な養殖を実現します。さらに、完全養殖技術の応用として、生産した種苗の中で優良形質(ここでは成長形質)を有した個体群を選抜し、選抜した群れを親として完全養殖を繰り返すことで、優良形質を固定化してゆくことができます。近大水研では1960年代後半から取り組んだマダイの成長選抜育種に成功しました。天然親からの人工種苗では、体重1kgに成長するためには約3年掛かりますが、近大マダイは半分の約1年半で成長します。この成果はマダイ養殖産業に大きな影響を与えました。マダイの国内養殖生産量はブリに次いで不動の第2位です。現在も近大の種苗事業(種苗販売)における主力魚種となっています。近大マダイは海産魚における育種の成功例としても有名です。
近年、資源の持続的利用への取り組みとその取り組みを保証する水産エコラベル認証制度が世界的に拡大しています。SDGs(持続可能な開発目標)の中で14番目の目標“海の豊かさを守ろう”は養殖産業とも密接な関係があります。中でも天然資源に依存しない養殖として主に種苗と餌の問題があり、これらの問題を解決するためには完全養殖技術は不可欠です。完全養殖とそれを保証するSCSA(持続可能な水産養殖のための種苗認証協議会)認証などの認証制度を活用することが国内の生産量や輸出拡大への訴求力となることを期待しています。
近畿大学水産研究所
特任教授・所長 升間 主計
2021.7.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.7
陸上水産養殖を成功させるには
10年ほど前に、陸上養殖の有用性を愚考し、効率を求める上で必要な基本的必要事項にはどのようなものがあるか思いを馳せたことがあります。あえてここに再録するならば
1) 対象生物をどう選ぶか
2) システムをどう設計するか
3) 用水をどう確保するか
4) 種苗をどこから入手するか
5) 飼料はどれがよいか
6) 病気・減耗をどう防ぐか
7) 商品をどこへいつどこを通じて売るか
8) 困ったときはどこへ相談するか
9) 製品の良さをどう宣伝するか
10) 関連する法制にはどのようなものがあるか、
などで、要は①飼養可能技術を高めること、②需要を掘り起こして供給技術を確立することなどの基本的ノウハウを集積することに尽きると指摘したつもりでした。本「陸上養殖勉強会」は廣野海洋大教授代表の下、すでに現場で苦労なされていた幹事諸氏、事務労力を厭うことなく発揮されたエグジビション テクノロジー(株)等の献身的サポートに支えられ、会員800名に上る“会”にまで成長したと聞いており、情報メディアを発刊することは誠に喜ばしい限りです。向後も会の趣旨に賛同する斯界の方々は増えると思われますが、出来うれば(1)対象種の多様化を図ること、(2)技術面に「育種(遺伝子操作)」を取り入れることなどを取り組むべき課題として取り入れることを勧めたいところです。一端を例示するならば、リビングルームの片隅で飼うことができるほどの小型錦鯉を挙げます。世は宇宙時代!、地球を眺める窓辺に置けるサイズのペットフィッシュ飼育システムは如何でしょうか。むろん、節水・無給餌タイプが求められますので、インフラテクノロジーの輪も広がるでしょう。ただし、あくまでも閑居老人の戯言に過ぎませんので、会を挙げて取り組む必要性は薄いかも知れません。本会の向後ますますの発展を期しつつ応需まで。
東京海洋大学 名誉教授 隆島 史夫
2021.6.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.6
海水魚の陸上養殖
最近、国内で海外資本によるサケマス類の大規模な陸上養殖事業の展開に関するニュースをよく目にするようになりましたが、わが国の海水魚養殖の98%以上は海面の小割式網イケス養殖法で行われており、陸上養殖はヒラメなどごく一部の魚種に限られています。陸上養殖の場合、イニシャルコストおよびランニングコストがいずれも網イケス養殖よりも高くなることがその最も大きな理由です。つまり陸上養殖の成功の鍵は単価の高い魚を養殖し、そのコストを如何に下げるかにあります。網イケス養殖の場合、生産コストに占める割合が最も高いのは餌飼料費ですので、まずは増肉係数を低く抑えることが重要となります。海水養殖におけるサケマス類の増肉係数は低く、大西洋サケでは1.2前後、日本のギンザケ養殖でも1.5前後と、増肉係数が3前後となるブリやマダイ養殖の1/2ほどです。冒頭に述べた大規模なサケマス類の陸上養殖事業が計画されたのは飼料コストが低い魚種であるということも大きな要因の1つと考えられます。
近畿大学水産研究所でも富山実験場においてサケマス類の陸上養殖として、サクラマスの養殖に取り組んでいます。富山県には名産の鱒寿司があります。かつてサクラマスを使って鱒寿司が作られていましたが、現在ではサクラマスがほとんど漁獲されなくなったので輸入された養殖サケマス類が用いられています。富山実験場では水深100m層から取水していて夏でも20℃以下の海水を利用できます。この特徴を利用してサクラマスの陸上養殖研究を進め、富山県内での完全養殖と選抜育種による大型化を目指しています。鱒寿司用として利用可能な魚体重が2.5 kgに達するものも養殖できるようになりました。さらに大型化と周年出荷を目指して全雌三倍体サクラマスの養殖にも取り組んでいます。
サケマス類以外の陸上養殖対象魚として近畿大学水産研究所ではマアナゴ(Conger myriaster)に注目しています。農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、漁獲量(あなご類)は統計を取り始めた1995年から2019年にかけて全国では約4分の1に、最も漁獲量が多い瀬戸内海では10分の1以下にまで大きく減少していて、漁獲量の減少に伴い単価が上昇する傾向にあります。マアナゴ稚魚以降の飼育を試みたところ、25℃以上の高水温になると摂餌量が大きく減少し、27℃以上で斃死し始めることが明らかとなりましたが、適正な水温で飼育すると30g程度の稚魚が約半年で出荷サイズの200gにまで成長することが分かりました。陸上養殖でランニングコストを下げるには養殖期間の短い魚種を選ぶことが重要であり、マアナゴは陸上養殖の対象種として期待できると思います。
陸上養殖では生産コストを抑えることが大きな課題となりますが、適切な魚種の選定や新しい技術を応用した品種改良の導入によってその課題を克服できればと思い研究を進めています。
近畿大学水産研究所
教授 家戸敬太郎
2021.4.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.5
完全閉鎖循環式陸上養殖システムとその福祉への利用
完全閉鎖循環式陸上養殖における技術的なボトルネックは、飼育水に蓄積する硝酸と水溶性有機物を除去する工程にありました。それらを好気的脱窒装置の開発と剪断式泡沫分離機の導入によって解決し、高性能な完全閉鎖循環式陸上養殖システムを完成できました。その結果、陸上養殖に必須であった換水が不要となり、取水・排水に伴う漁業権や環境汚染を気にせず、どこでも楽な作業で、安全・安心な魚介類の陸上養殖が出来るようになりました。完全閉鎖循環式養殖システム下では、魚の健康は改善されて成長や飼料効率が良くなり死亡率も低下、アワビやウニなどの無脊椎動物では今まで不可能であった無換水での長期飼育も可能となりました。また、長期飼育しても飼育水に不快なゲオスミン臭の発生がなく無臭で、魚介類の肉質にゲオスミン臭がつかない長所もあります。様々な方面への利用が進んでいますが、さらにもう一つ、このシステムを使った水産と福祉との連携(水福連携)を提案できたことは、望外の喜びでした。
障がい者総合支援法が制定されて以来、社会の様々な分野で障がい者の雇用が進んでいます。農林水産業では、特に農業分野で福祉との連携が盛んで、それはインターネットで検索してみると多数の活動がヒットすることからも分かります。いっぽう水福連携はほんの少しの活動しかヒットしません。そのような大きい違いが生じた理由として、漁業には作業が危険で重労働、作業場が辺地にある、稼げないとかの理由があって、障がい者や雇用者側からも敬遠されているのでしょう。しかし、完全閉鎖循環式陸上養殖システムを使った養殖では危険が無く作業も楽、都市で出来るというメリットがあるので、障がい者だけでなく高齢者など社会的弱者にも漁業への就労の道を開くことができました。その例として、昨年度から県の補助と地域の援助の下に始まった、NPO法人どんぐりの会(津市、代表:池田芙美)の障がい者支援活動があります。技術習得の手始めに、成長が速く飼いやすいカワハギを無換水で陸上養殖しましたが、4か月ほどで試食できるほど大きく、美味しく育てることができ、どんぐりの会の水福連携にかける自信と意欲がさらに高まりました。このような水福連携がどんどん広がっていき、地方創生や漁業の活性化に繋がっていくことを期待しています。また、どんぐりの会に通う子供たちが魚の成長や泳ぐ姿に大喜びする姿を目にしていると、学校教育、例えば魚介類やホタルの飼育を通した環境教育にも、貢献できるかもしれないと考えています。
延東 真
(東京海洋大学名誉教授、ウイズアクア、プレスカ顧問)
2021.3.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.4
ウィズコロナにどう適応するのか。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まったことで、"ニューノーマル"はより実践的なフェーズに入り、われわれの日々の生活にもさらなる変化が求められています。一方、コロナがあろうとなかろうと、世界的な人口増加と食料確保の問題は変わっていません。むしろコロナ感染対策のため輸送が制限されたことがきっかけとなり自国内生産の重要性が再評価されており、養殖業の役割は日に日に高まっているように感じます。そこで、今回は、近年の養殖業界のトレンドについてご紹介したいと思います。
創刊58年となる「養殖ビジネス」では、月刊誌12冊+増刊号1冊の13冊体制で、最新情報をおとどけしていますが、近年人気の特集企画が「サーモン」「陸上養殖」「水中ドローン」「AI・Iot」です。見ての通り、最初のひとつだけが新魚種で、あとは全て新技術です。これらの分野は「スマート養殖」とも呼ばれ、大手商社やベンチャーなどさまざまな業種からの新規参入が増えているテーマです。
キーワードのひとつ「陸上養殖」は、現在、第三次ブームと言われ、世界各国で開発競争が行われています。弊誌では2013年10月号にて特集「閉鎖循環式陸上養殖 産業化への道」を実施し、その後、同名の連載企画を開始しています。特集企画は毎年つづけており、それらの集大成として2017年4月に単行本『循環式陸上養殖 飼育ステージ別 <国内外>の事例にみる最新技術と産業化』を発刊しました。2018年以降も特集企画を継続し、2019年8月からは、改めて隔月連載「新・閉鎖循環式陸上養殖 産業化への道」をスタート。現在に至るまで掲載しています。今年についても特集企画を準備していますので、ご期待いただけましたら幸いです。
ドローンといえば空を飛ぶもの、というのが一般的なイメージでしたが、次のフロンティアとして期待されているのが、もうひとつのキーワード「水中ドローン」です。業界団体からは「日本の水中ドローンの市場規模は、2020年の20億円から2023年には39億円まで拡大する」という予測が出されており、従来のダム・水門・下水管などのインフラ整備や船底調査・海底調査への利用にとどまらず、養殖業における飼育魚介類の生育調査・漁具点検・へい死魚回収などへ用途が広がっています。潜水士が不可欠だったこれらの作業をサポートできるため、コストだけでなく、安全面からも注目されている技術です。2020年1月号には初級編として特集「水産養殖用水中ドローン入門」を企画しましたが、今年5月号では「日本と世界の水産養殖用ドローン(仮)」を予定しています。世界の最新情報を盛り込んでおりますので、ぜひご覧いただければと思います。
最後に、コロナ禍による影響で延期となっていた「第18回 シーフードショー大阪」が、3月17日~18日に無事開催されることになりました。初日は「陸上養殖セミナー」、2日目には「アクアポニックスセミナー」が行われますので、講演タイトルなどの詳細は、以下のウェブサイトをご覧ください。先行きが見えないときこそ、指針となるものが必要です。当勉強会では、これからも陸上養殖に興味のある方や企業が交流できる場を提供し、産業の発展に向けて活動してまいります。
陸上養殖勉強会幹事 秋元 理
(株式会社緑書房 月刊「養殖ビジネス」編集長)
2021.2.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.3
昨年から今年にかけて、コロナの影響で健康管理がいかに重要か、改めて気づかされた事でした。水産養殖事業においても、健康管理は非常に重要です。今回はこの健康管理を確実に行う心構えを、エビ養殖を事例で考えてみます。
エビの病気と生産上の問題は、育成の各段階において異なります。エビの斃死、成長速度の遅延、そして高い飼料要求率による生産量の不足は、エビ生産施設にとって経済的な打撃を被ります。タウラ症候群ウィルス(TSV)、白点病(WSSV)、ビブリオ症、そして急性肝膵臓壊死病(AHPND)などの病気により、相当量の損失が起こっている養殖地域が世界的には多々あります。
病気の発生と蔓延を防ぐ有効な管理方法は、適切な生産管理システムと関係しています。うまく管理出来ていない環境下では、成長率と生存率が低下します。このことは養殖が大規模な塩水池で行われていても、淡水水路で集約的に行われている陸上養殖施設においても同様です。飼育密度を高くした生産管理環境に移すと、ストレス要因が増えることになります。エビにかかるストレスをある一定限度内に確実に収めるためには、優れた管理方法を構築し、それを実行する必要があります。また、季節の変化もエビの健康に影響を及ぼすことが知られており、病気の問題は夏の高温下においてよく発生します。
バイオセキュリティーの保持と病気発生の防止は、養殖場管理者が全員目指すものです。バイオセキュリティーの定義は病気を防ぐこと、また、その病気を運び蔓延させることの防止、そしてその他の健康問題からエビを守るということです。病気を初期段階から防ぐ最良の方法は、稚エビをSPF施設(特定病原体未感染施設)や高い健康状態を保つことができる稚エビ供給者から仕入れることです。新たな供給者から仕入れたエビを施設に入れる時には、購入時、または養殖場収容時に検疫を行い、相手国政府が発行する健康証明書を確認ください。
また、従業員も他の場所から届いたエビを扱った時には、作業に取り掛かる前に手洗い・消毒を実施してください。食料品店から入手した冷凍エビが入った箱を移動させるといった単純な作業を行うことでさえ、冷凍物に付着した細菌を自社の養殖場に持ち込んでしまう結果となる可能性があります。人が移動することで、ひとつの養殖場から他の養殖場へ病原菌を運んでしまうこともあります。他の養殖場を訪問した後、自社の養殖場で作業をする前は手、足などを消毒し、シャワーを浴び、服や靴を着替えてください。
これらの原則は3つです。「入れない」、「着けない」、「出さない」となります。
「入れない」とはSPF稚エビの導入、人の出入り時に消毒するなど外部から病原菌を入れない為の注意事項です。「着けない」とは育成環境を適切にコントロールし、そこでの病原菌の発生を極力ゼロにすることです。「出さない」とは、育成の終わった施設は必ず一回一回消毒し、施設外に危険なものを出さないことです。これらの基本を実行できれば、安心してエビの生産が行えます。陸上養殖技術は今後も発展し、新しい技術が生まれてくると思いますが、育成の原則はそれほど変わらないと思います。今後も丁寧な育成を心がけて行きたいと考えています。
陸上養殖勉強会幹部 野原 節雄
(IMTエンジニアリング株式会社 顧問)
2021.1.06「陸上養殖勉強会」会報 Vol.2
「陸上養殖勉強会」会員の皆様、あけましておめでとうございます。
昨年の初めから世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっており、仕事の仕方や食の形態も大きく変わりました。なにかと不自由な生活の中でさまざまな変化に対応せざるを得ない状況が生み出され、これまであまり変化のなかった社会が大きく変わりつつあります。その中で多くの職種が影響を受けることとなりました。今後のワクチン開発など医療の高度化によるウイルス感染症の終息を祈るばかりです。そして終息後の社会がどのような復活を遂げるのかについても注目されるところだと思います。この不安のある生活の中で新たに生まれた方式や技術がウイルス感染症の終息後も様々な場で活用され、多様性を産むことも想像できます。
水産においても同様に多様性が求められており、安全な水産物の生産・供給とその増大が常に望まれています。その中で水産養殖の発展にも期待がよせられており、その一部を担っているのが陸上養殖だといえます。陸上養殖は、施設建設やエネルギーのコストがかかりますが、安定した環境で生産を行うことができ、比較的容易に新規参入できる点や余剰エネルギーの利用、観光との連携といった関連産業とのつながりを直接作り出すことができる点で優れています。様々な技術やアイデアを基に水量数トンの非常に小さなものから数万トンの大型施設まで多種多様な飼育システムが開発され、気候や用水、立地などの条件に合わせて最適化された生産形態が実現されています。
陸上養殖は水産養殖の中で最も多種多様な生産方式を実現できる養殖形態です。複合的な要素を取り入れ、水産の枠を超えたものも生まれており、近年特に魚類養殖と水耕栽培を融合したアクアポニックスも注目を集めています。アクアポニックスは水産養殖から排出される物質を肥料として水耕栽培を行うことで養殖システムからの水質汚濁物質の排出を抑え、有機野菜などを生産することができます。最近では日本においてもアクアポニックスを専門に行う企業がいくつか実生産を行うようになってきました。また、水産・海洋系高校でも小規模なシステムを用いた教育が行われていますし、趣味の世界でも観賞魚と観葉植物を組み合わせたシステムが販売されています。陸上養殖勉強会でもアクアポニックスを軸とした産学官の交流を目的としてアクアポニックス部会を下部組織として立ち上げ、昨年9月末に「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」にてセミナーを実施させていただきました。今後も定期的にセミナーを実施していく予定です。
最後に今後の食料生産や流通・販売は、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延も影響し、必要性(ニーズ)を踏まえた「多様化と取捨選択」が進むと予想されます。陸上養殖勉強会はこれまでと同様に陸上養殖とその周辺にある水産関連の情報提供を進めて参ります。会員の皆様のご意見をニーズと受け止め、セミナーや講演会の企画を行っていきます。しばらくは厳しい状況が続くと予想されますが、できることから活動を続けていきます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
陸上養殖勉強会幹部 遠藤 雅人
(東京海洋大学准教授)
2020.12.01「陸上養殖勉強会」会報 Vol.1
「陸上養殖勉強会」会報配信始めます
「陸上養殖勉強会」では会員の皆様との交流を図ることを目的として勉強会幹事や講師の皆様から会員に向けて情報配信を始めます。第一弾として、「陸上養殖勉強会」について改めて紹介させていただきます。
「陸上養殖勉強会」の前身は、これまでに東京海洋大学名誉教授の隆島史生先生を中心に主に「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において養殖に関するセミナーを開催してきた集まりです。セミナーを始めた頃は聴講者が数名ということもありましたが、陸上養殖に関することをテーマとしてセミナーを開催するようになり、年々聴講者の数も増えて来たことから「陸上養殖勉強会」を立ち上げる時期であると考え、「陸上養殖勉強会」の目的を「日本国内での養殖業活性化の一つとして陸上養殖ビジネスを普及させるための各種検討を行うことを目的とする。」とし、2013年3月末に日本水産学会春季大会開催時に合わせて第1回の「陸上養殖勉強会」を東京海洋大学品川キャンパスにて開催しました。
第1回の「陸上養殖勉強会」には100名を超える参加者が有りました。参加者はいわゆる水産業に関連する企業の方のみならず、これまでに水産業とは関連のない分野の参加者も多数あり、陸上養殖に興味を持たれる方がたくさんおられることを認識させられる会でした。その後、毎年4回の「陸上養殖勉強会」セミナーを開催しております。2020年は新型コロナの影響で「陸上養殖勉強会」セミナーは2回の開催になりましたが、これまでに29回のセミナーを開催して来ました。セミナーを開催するごとに会員数も増加し2020年11月現在で会員数は700名を超えております。
今後、「陸上養殖勉強会」セミナーは、真冬に大阪での「シーフードショー」、初夏に沖縄での「農水産業支援技術展」(2020年は新型コロナの影響で2021年3月に延期)、真夏に東京での「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」、晩秋に東京海洋大学で開催予定にしております。また、陸上養殖と野菜工場を一緒にしたアクアポニックスに特化したセミナーが、東京海洋大学の遠藤雅人先生を中心に今年の「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」から始められました。
東京海洋大学で「陸上養殖勉強会」セミナーを開催する際には懇親会も行っており、この懇親会では企業同士のマッティングも行われているようです。これからも、陸上養殖に興味のある方や企業が交流できる場を提供していきたいと考えております。これからも陸上養殖に関連する産業が発展することを期待しております。
最後に、陸上養殖とはあまり関係がないかもしれませんが、日本の大学はたくさんの優秀な留学生を育てていることを紹介させていただきます。日本政府は2008年に留学生30万人計画を立ち上げ、専門学校に在籍する留学生を加えると2018年に目標の30万人を達成しております。大学でも留学生を教育し、優秀で親日的な研究者を輩出して来ております。このような留学生のほとんどは自国に戻り、産官学のいろいろな分野で活躍しております。しかし、残念ながら多くの民間企業の方は、このような日本で育った優秀な研究者や企業人が東南アジアを中心にたくさんいることをご存知ないようです。海外(特に東南アジア)でのビジネスを考えておられる場合に、日本の大学で学位を取得した元留学生を頼っていくことにより、安心して海外に出向いていけるのではないでしょうか。
新型コロナ感染症が収まらないと海外へは簡単には行けない状況ですが、早く新型コロナ感染症が収束するか、安全性の高い有効なワクチンが利用できるようになることを祈るばかりです。
陸上養殖勉強会代表 廣野 育生
(東京海洋大学教授)
陸上養殖勉強会に寄せて ~発起人の一人として~
陸上養殖勉強会を立ち上げて、すでに3年が経過しました。陸上養殖に関しては2000年前後に一度ブームになり、多くの関心がもたれましたが、その後下火になり、ここ数年第2次のブームになっています。私共はこの機会を逃さず、本当に陸上養殖が産業化できるようにとの願いを込めて、この陸上養殖勉強会を運営しています。全くの手弁当での取り組みから始めており、だれでも勉強したい人が集まって議論する場を設定させていただいております。
これまでの活動としては、年に4回を目途にセミナーを開催しています。ホームページをご覧いただければと思いますが、2013年3月29日に開催された第1回「陸上養殖勉強会」セミナー では、私から「閉鎖循環式陸上養殖~現状・課題・展望~」と題して講演させていただき、以来本年までに13回のセミナーが開催されました。夏は東京で、春は大阪でそれぞれ開催されますシーフードショーに合わせての2回、そのほかの2回は主に東京海洋大学で開催しています。本年は5月に沖縄での地方開催を行いました。今後もこのような機会を増やして全国各地で展開したいと思っています。また、会員の皆様方にはEメールによる配信も行っています。
陸上養殖を一つのビジネスチャンスとしてとらえ、多くの会員の皆様方と共有しながら、発展させていきたいと思っています。今後ともよろしくお願い致します。
東京海洋大学 学長 名誉教授竹内 俊郎氏